【from】井口優子(いぐち・ゆうこ=ジャーナリスト) 中絶より養子を
2003/01/15, 産経新聞 東京朝刊
四十三歳の独身女性が初めて、ただし間違って妊娠した。胎児の父親と別れた直後で、すぐに中絶手術の予約をいれた。が、年齢的にこれがラストチャンスかと思うと産みたい。予約をキャンセルする。が、頼れる親兄弟もいない。自由業のため出産・育児中の収入の保証もない。自立を支援する目的という児童扶養手当は、前年の年収が十九万円以下だと、月額最高四万二千三百七十円。収入が増えると十円刻みで減る。年齢的に日本社会では就職も難しい。また中絶の予約をいれる。キャンセルする。繰り返すこと四度。迷いに迷う。
意見を求められた私は、自分で育てられないのなら、アメリカ式に養子にだしたらどうかと答えた。と、「養子に出したなら二度と子供に会えない。自分で育てられないのなら堕(お)ろすほうがまし」と彼女は言う。日本的発想よ、と言ったが、結局彼女は堕ろしてしまった。もったいない! 私は天を仰いで嘆息した。
私にとってのアメリカ七不思議の一つは、なぜ彼らはかくも養子にオープンなのか-。答えを知りたくて取材を始めた。中絶を容認しない宗教的背景がある。中絶が個人の選択か否かは、大統領選の争点にもなるほどだ。宗教は逆にも働き、家庭が必要な子を養子にとり愛(め)でる。教育やキャリアのために全米を動く彼らは、人間関係が希薄になり、自分自身の家族を作りたいという希求は強い。彼らの「家族の神話」には、子供が不可欠なようなのだ。
以前は、産みの母の情報はふせられていたが、今は、産みの母と育ての親が連絡し合うオープン養子制度に移行中だ。そのほうが子供の精神状態にいいのではと言われはじめたからだ。年齢的に自分の子が無理なら養子を、という独身女性も増えている。
取材過程で、私自身の日本人的狭量さを突きつけられた。少子化と騒がれて久しいが、この問題でも、社会にも人にも発想の転換が必要なのではないか。