【書評】『がん常識の嘘』渡辺亨著
2006/05/14, 産経新聞 東京朝刊
■淡々と論理的に言葉を尽くす
がんはすっかり国民的テーマとなった。しかしまだ、がんとはどういう病気なのかをきちんと理解している人は少ない。そこで本書の登場である。患者やその家族のみならず、医師にも「がん常識」と思っていることに少なからぬ誤解があることを、論理的に、しかし言葉を尽くして説明する。
医療者と患者は情報を共有すべきだという姿勢をこの本でも示す著者は、腫瘍(しゅよう)内科医として日本でも指折りの実力者だ。国立がんセンター中央病院「乳腺・腫瘍内科」医長時代に私も何度か取材でお会いした。氏はアメリカ留学中に、抗がん剤によってがんを治療する専門医-腫瘍内科医の重要さを認識した。さらに臨床試験を通して、抗がん剤によるそのときのベストの標準治療を確立しようとする手法を学んだ。
帰国後、専門的勉強をしていない医師が、抗がん剤を処方する日本の医療現場の問題点を指摘した。個人の限られた経験で治療方法のよしあしを自信ありげに語る場面に学会などで遭遇すると、先輩医師でも、「その医学的根拠は何であるのか」と真っ向から問い質した。
私は三年前、氏が東京の山王メディカルプラザに招かれて開いたオンコロジー(腫瘍)センターも訪問した。国立がんセンター中央病院を去って改めて中央病院の力を再認識し、同時に自分一人でここまでできるという自信も得た二年間だったのでは、と推測する。昨年五月、郷里の静岡県浜松市に、祖父の代からの渡辺医院を引き継いで「渡辺医院・浜松オンコロジーセンター」を開設した。氏のような医師が地方にオンコロジーセンタ-を設立した意義は途方もなく大きい。
そして、センターとはいえ、たった一人の医師だと書くその言葉が自然体であることに心引かれた。腫瘍内科医の視点から淡々とがんについて語る本であるのに、人間渡辺亨の魅力が行間からにじみでている、と思うのはひいき目か。(朝日新聞社・1365円)
(評論家・井口優子)
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【プロフィル】渡辺亨
わたなべ・とおる 昭和30年、静岡県生まれ。北大卒。共著に『乳がん 私らしく生きる』ほか。