【断】女性だからこそできたこと
2007/08/26, 産経新聞 東京朝刊
政治評論家、伊藤昌哉氏存命中に、氏の政治談論を半年ほど月刊誌の記事にまとめさせていただいたことがある。一番印象的だった台詞(せりふ)が「政治家は小さな檻(おり)に詰め込まれた野生動物みたいなもの。熾烈(しれつ)なサバイバル競争でポストをとれなかった時は即刻政治的死を意味することもある」だった。
伊藤氏は池田勇人首相の首席秘書官、後に大平正芳氏の側近となった。大平首相誕生から、自民党史に残る反主流派との「40日抗争」、史上初の衆参同日選挙の決定、首相在職中の大平氏急死の渦中にあって、権力とは何かを見据えてきた。
今回の小池百合子防衛相就任早々の人事騒動に伊藤氏の台詞をなぜか思い出した。当時の抗争からみれば小さな対立だろうが、女性が中心にいるのが大きな違いである。平和的イメージがある女性には一番そぐわない防衛相になぜ小池氏がなるのか、なれたのか、何をするのか。同性として興味深くみていたなら、早々に先制パンチを入れた。この行動をどう解釈したらいいのか。
男社会の暗黙のルールを壊し、社会の風通しをよくするのは、男社会に与(くみ)していない女性の仕事ではと思う。しかし既成の権力に切り込むには自身にも権力が必要で、権力を得るためには男社会のルールに従わなければならない。この矛盾を女性議員たちはどう解決しているのか。はなから権力好きな男性的性格なのか。いや、男性、女性というステレオタイプで分けるのが古臭いのか。
報道番組出演の男性は「アメリカみやげのパフォーマンス」と切り捨てていた。そうであっても、防衛事務次官のポストを争う舞台裏を国民にみせてくれたのは、女性だからこそと、同性としては思っておきたい。(評論家・井口優子)



