【断】地方の医師不足のために…
2007/07/25, 産経新聞 東京朝刊
先日郷里の長野に帰省したさい、信濃毎日新聞(7月19日付)で、参院選長野県選挙区立候補者4人に、県内の医師不足対策を尋ねる記事が掲載されていた。「二〇〇四年度の新臨床研修制度導入以降、研修医が大都市圏に集中し、医師不足が深刻化。長野赤十字病院(長野市)が分院に当たる上山田病院(千曲市)を来年三月で閉鎖する方針を決めるなど、影響は病院の存続にまで及んでいる」という。
長野市では、長野赤十字病院が長らく総合病院のキングである。たまたまある検査をする必要性に迫られ、それなら東京ではなく、ここの患者になってみることにした。東京と地方の医療格差がよくいわれるが、どんな格差があるのか、常々興味をもっていたからだ。
私自身は「患者の自己決定」という考え方にアメリカでなじんでいた。ことに治療の選択肢があるとき、医師はプロとして情報を提供し一緒に考えるが、最終的には患者本人が決め、その結果に責任を持つ。それゆえ、こう言ったなら医師に嫌われると恐れたことはなかった。東京でも同じ考え方を持つ医師を探すことができた。
ところが、長野赤十字病院では、地域では他の病院の選択肢はないのだからここで嫌われたくないという患者心理が私ですら生じて、聞きたいことを聞けなかった。
最近、がんがみつかった友人はセカンドオピニオンをとることも躊躇(ちゅうちょ)した。病院側では患者の権利として、「当院ではセカンドオピニオンを推奨しています」との方針を明示しているのにである。
地方の医師不足は「選択肢」についての医療格差を広げ、それは患者を萎縮(いしゅく)させることを身をもって体験したのだった。(評論家・井口優子)