【断】「言葉不全」がいじめとなる
2006/10/28, 産経新聞 東京朝刊
担任教師の言動がいじめのきっかけとなり、生徒を自殺に追いやった。
15年ほど前も、ある日突然1人の生徒が全員に無視(シカト)されるという、いじめ報道があった。が、日本から遠く離れたサンフランシスコに住む私が同じ目にあうとは思いもしなかった。しかも、相手は東京からきた弱者を助けるボランティア団体の人たちだった。
ボランティア運動では先を行くアメリカに学ぼうと彼らはやってきた。団長は全国紙を退職したばかりの元記者。副団長は都職員。旅行社が中に入り、アメリカのボランティア団体の話を聞く講義などを組んでいた。
私は講義をするアメリカ側から招待された。日本の月刊誌用に彼らを取材したばかりの私の知識が、日米の架け橋になれば、といわれた。それこそボランティア精神で引き受けた。同じ日本人だから、一行と一緒のテーブルについて自由に意見を述べてくださいとアメリカ側にいわれたのだが。
3日めの朝、突然日本人一行に無視された。おはようございますの挨拶を返してくれたのはたった2人。1日中無視された夕方、感じのいい副団長が私を呼んで言うのだった。「あなたがブルーアイで金髪だったら-。同じ日本人が英語も話せてボランティアのことをわれわれよりもよく知っているのはちょっと」
人にはそれぞれの感情や言い分がある。それを「無視」ではなく、まず言葉で伝えようとするのが大人ではないか。子供社会のいじめは、コミュニケーションツールとしての言葉を持たない大人社会の反映そのものなのだと実感した。残念ながらそれは今も変わらない。(評論家・井口優子)