【書評】『日本のがん医療を問う』NHKがん特別取材班著
2006/02/27, 産経新聞 東京朝刊
■アメリカのシステムと比較
在米中、ニューヨークはコロンビア大学医学校の学生らが一人前の医師になる過程を十五年にわたって見続け、医療現場の取材も行った。ここ数年は日本のがん治療の取材をし、日米医療の違いに思うこと多々ある。
昨年放映されたNHKスペシャル「日本のがん医療を問う」が、加筆・再構成されて出版された。患者の視点にたち、急速にがんの死亡率を下げているアメリカのがん医療が日本よりどう進んでいるのか。現地取材に加えて、グラフで分かりやすく説明した番組は迫力があった。本では淡々と取材事実を積み上げて静かな説得力がある。
がん検診での見落とし、相次ぐ放射線治療事故、病院格差、腫瘍(しゅよう)専門医の不足など、指摘される問題点は文化に根づいた教育システムに原因もある。スペシャリストに価値を置くアメリカでは、机上の勉強と患者を診る実地訓練の二本立てで、信頼に足る専門医を育てるシステムがよくできている。東京の国立がんセンター中央病院のレジデント制度はアメリカの専門医教育システムに匹敵するが、アメリカでは全米レベルで行っているのが違いである。
新薬に対する厚生労働省の承認が遅すぎる、との指摘に一言。国民皆保険がないアメリカでは、国の認可=患者全員に保険から一定額が支払われるという図式になっていない。
アメリカ政府あるいは民間保険会社が、経済的メリットがあるかどうかの判断で予防医学を行っていることを紹介しているが、日本の新薬承認の問題も患者サイドのみならず、国民皆保険というシステムの経済的視点からも論じてほしかった。
新しい抗がん剤の値の高さは驚くばかりで、患者の負担いかばかりか。一刻も早い承認を求めるのは当然である。が、アメリカ並みのスピード承認は、日本では国民皆保険の負担が増えることになる。そのとき、アメリカにはない日本の優れているシステムをどう守るのか。現在のそして未来の患者を守るために。(新潮社・一四七〇円)
評論家 井口優子