【from】井口優子 それぞれの祖国
2004/12/15, 産経新聞 東京朝刊
サンフランシスコ在住の香港チャイニーズとジャパニーズガールの結婚生活が危うい。妻に離婚を切り出された夫は「ついこの間まで二人でいてすごく幸福だったのに」と戸惑い、友人である私に日本女性理解の助言を求めてきた。
結婚して四カ月。夫は香港生まれで大学から渡米して在米十四年の三十二歳。一流企業に勤務。返還前の香港では、返還後の香港が住みづらくなったときの布石に、家族の一人をアメリカに送り、アメリカ国籍もとらせた人たちが多いと聞く。
サンフランシスコ市内のサンセット地域は霧が出るため人気が低く、家そのものの価値からすると値段が手ごろである。この地域の家の所有者の50%以上が中国系アメリカ人で、その多くが香港出身だと不動産屋から聞いた。
香港の家族と力を合わせて、生活を切り詰めて家を買う。その家を賃貸に出し、本人は安い賃貸アパートに住み続けて、二軒目、三軒目と財産を増やすのだそうだ。
相談の主はファッショナブルな若者の町マリーナに住んでいるが、ここで自分の生活を確立しようとする覚悟は同じである。
一方、日本人妻は東京近郊の生まれで、日本で高校を卒業した二十八歳。両親宅に同居しながらフリーターをして一昨年、語学留学。東京時代はおいしいものをたくさん食べたのだという。
彼女は「離婚したい一番の理由は、彼にはいってないけれど、親の経済レベルが違うこと」という。毎日、日本の母親に電話して、外食もほとんどしない生活をぐちっていたら、母親は「日本に帰ってきなさい」。
双方の話に耳を傾けると、親の経済状況のみならず、祖国の状況の違いも影響していることがみてとれる。いつでも帰れる国に家があり、在米も腰掛けの彼女を、どう評価するかは置かれた立場によって違うのだろう。
が、二人の違いの溝を埋めるのは容易ではない、と私は彼に伝えたのだった。
(いぐち・ゆうこ=ジャーナリスト)