【from】井口優子 頼れる者は自分
2003/09/06, 産経新聞 東京朝刊
アメリカ政府が国民の命を守るためにいかに迅速に行動するか、その一端をみせつけられた経験を、以前この欄で書いた。その時のアメリカ人の「頼れる者は自分」というアメリカ人気質の対応を、日本海周辺がきな臭くなった今、触りだけでも紹介したい。
中南米にハリケーンが襲った五年前、ニカラグアの地方都市に、アメリカ人医療ボランティアの一行約二十人と一緒に私も、陸の孤島状態で取り残された。数日後、天候が回復するや、ニカラグア軍のヘリでアメリカ大使館付き武官が現れ、「最後の一人が脱出するまで責任を持ちます」と言明し、ニカラグア軍とアメリカ軍のヘリでの脱出を実現させた-という内容だった。
しかし、「天候回復後、救出が向かう」という電話連絡が一行にきた後も、救出を漫然と待つアメリカ人は誰一人いなかった。迂回(うかい)路をとっても車で自力脱出の道はないのか、その情報収集、水、食料、ガソリン確保の役割が即決され、暴風雨の中を皆とびだしていった。
救出が実現された時の準備も怠らない。軍のヘリは重量制限があるので、全員が一機のヘリに乗ることは不可能だ。諸事情ですぐ脱出したい者、待てる者、最後まで残るべき者と三つのグループに分ける。
軍経験者が二人いて、「首都マナグアへの飛行進路上に山がある。アメリカ軍のヘリは夜間レーダーを持つが、ニカラグア軍ヘリにはなく、夜間飛行は墜落の危険もある。僕は日没後のニカラグア軍ヘリでの脱出は望まないが、それも各自判断すべきこと」と軍経験者ならではの提案がされる。
実際、ニカラグア軍のヘリが基地をとびたてる準備ができたのは日没後で、山頂飛行は闇の中が現実となった。命のリスクをかけてヘリに乗る者、否の者が瞬時に分かれた。私もまた「自己責任」を取り(取らされ)、ヘリ搭乗を選んだのだった。(いぐち・ゆうこ=国際ジャーナリスト)