【from】井口優子 “占領国家”日本
2003/08/01, 産経新聞 東京朝刊
イラク戦争の大義が揺らいでいる。イラクの核開発疑惑を裏付けるとされた情報(ニジェールからのウラン購入計画)が虚偽であったとアメリカ政府も先ごろ認めたが、この情報に疑念を持つアメリカ国民は少なくなかった。が、総指揮官たる大統領の決断で一度戦争が始まったら、「国のために命をかける兵士は支持しよう。ベトナム戦争の二の舞いをしてはならない」との強い思いが人々にはあった。アメリカの友人は「ブッシュ大統領はアメリカ人の愛国心を利用している」とよく言っていた。
それにしても、テレビニュースでも流された、ラムズフェルド国防長官とライス大統領補佐官の「イギリスの情報を信じたのだ」うんぬんのせりふには失笑した。「信じるものは自分」と、容易に他人を信用しないアメリカ人が、他国の情報を信じようとしたのはよくよくのこと。しかし、イラクが核を持つのは許さないが、アメリカはよしとする。核を抑止力に使い、世界の平和を構築する冷徹な判断力を持つからだ、という主張には理性と高潔さが必要である。
ニューヨーク・タイムズ紙は、CIAをスケープゴートにするのでなく、大統領の責任、少なくとも副大統領の責任は問われる、と強く主張する。ニューヨーク・タイムズ自身も自社の記者が盗作記事を書くという大問題を起こしたが、その後、なぜそのようなことが起きたのかを徹底究明し、その結果を紙面で公開した姿勢は、さすがだった。「アメリカを愛しているからこそ政府には常に監視の目を怠ってはならない」と言う友人の言葉には、大統領は国民が選ぶという自負がうかがえる。
一方、小泉首相の「わが国が情報収集しているわけではない」のせりふは、アメリカの友人宅で出されたコーヒーの受け皿の裏に彫り込まれた英語を思い出させた。「made in occupied Japan(占領下日本製)」。この言葉をアメリカで初めて見た時のショックを今でも私は忘れられない。(いぐち・ゆうこ=国際ジャーナリスト)