【書評】「ゴーストソルジャーズ」 ハンプトン・サイズ著、山本光伸訳
2003/05/18, 産経新聞 東京朝刊
■単純な善悪二元論ではない
第二次大戦下のアメリカ兵捕虜救出の実話に基づいたノンフィクションである。全米で七十五万部突破。すでにスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演で映画化も決定した。
一九四五年一月、アメリカ陸軍第六レンジャー大隊の精鋭百二十一人が、フィリピンの日本陸軍カバナツアン捕虜収容所から、五百十三人のアメリカ軍・イギリス軍の捕虜救出に成功した。アメリカ兵捕虜の多くは、日本軍の残虐さを世界に知らしめた「バターン死の行進」の生き残りだった、との粗筋に、ハリウッド映画的単純な善悪二元論のアメリカ賛歌の本かと身構えた。ところが、である。
日本軍一兵卒がなぜ捕虜を死に追いたてたのか。その考察は日本文化論にまで及ぶ。実際、著者は異国日本を理解すべく、日本で三カ月余の取材も行った。冷徹な視線はアメリカにも向けられる。「バターン死の行進」から、救出されるまでの三年にわたる捕虜生活で相当の同胞を死なせた責任者は、彼らを見捨てたルーズベルト大統領でもあった。スティムソン陸軍長官は「人には死なねばならない時がある」とまで言った。しかも大統領は、空手形の援軍派遣を唱え続け、フィリピン防衛の指揮官マッカーサー将軍は、「病的とも言える楽観主義に溺れて」いた。
救出後、母国の人々に歓喜をもって迎えられたが、まもなく忘れ去られた元捕虜たち。アメリカ軍戦争史上最大の「敗北の象徴」としての自身を恥とも感じ、見捨てた母国への恨みもあった。その複雑な心中を彼らは黙して語らなかった。著者はそんな彼らと、「英雄」賛辞を拒否し、「ただの任務です」と答え続けた元レンジャー隊員を訪ね歩いた。そして、「敗北」が大きければ大きいほど劇的となる捕虜救出という「勝利」の物語をここに甦らせた。本書最後の謝辞の項にある、「アメリカの人々は決して彼らのことを忘れてはいなかったのだ。そして無論いまでも」という一行に溢れるアメリカへのきらめく誇り。やはりこれはアメリカ賛歌の本であったと最後に知らされ、著者の筆力に脱帽するのである。(光文社・二二〇〇円)
評論家 井口優子