【from】井口優子(いぐち・ゆうこ=フリージャーナリスト)
2003/02/17, 産経新聞 東京朝刊
◆フランスとアメリカ
「揺れるカップルたちの神話」というタイトルで、某新聞で十二回の連載をした。「カップルの神話」という言葉に出合ったのは、本紙書評欄で手がけた「新しいカップル」という本でだった。原書はフランスで出版され、著者はカップルのカウンセリングを専門とする精神科医ロベール・ヌービュルジェ氏。各カップルは自分たちは特別だと信じる独自の神話を持つ。カップルとは「選択」ではなく、「運命の印」であり、神話に基づいたカップル再生の自己治癒の方法を探す-という氏の主張に、さすが成熟の国フランス、若いアメリカとは違う、と感心しきり。
滞米中、私個人もマリッジ・カウンセリングを経験したし、このテーマで取材もした。多くのアメリカ人にとって、カップルとは「選択」である。セラピストの役割は、結婚を継続するか否かの次なる選択をするために、己を、そして相手を理解するお手伝いである。二人の違いゆえの問題点が明らかになった時、カップル存続のためには「違い」に感謝し、譲り合いが必要だ。しかし、個人の幸福を追求することをよしとするアメリカでは、妥協は歓迎されない。
カリフォルニア州では、一人が離婚申請書を裁判所に提出すると、約半年後には離婚は自動的に成立する。書類に相手の署名は必要ない。一人に結婚継続の意思がなければ、結婚は破綻(はたん)したとみるからだ。そしてセラピストいわく、「カップルは救えなかったが、『個』は救えた」。その「個」は青い鳥を求めて多く再婚する。面白いことに再婚者の離婚率は初婚者の離婚率より高い。学習しないというべきか、幸福への飽くなき希求というべきか。
と、ここまで書いて、私生活での対処の仕方は、他国との付き合い方にも現れていることに改めて気づく。私生活では相手を、他国では指導者の首をすげ替えて即効性を求めるアメリカに、「カップルの神話」という芸術的アプローチをするフランスが、容易に同調しえないのも当然、と独り合点する。